「定年」という節目を迎えたとき、新たな職場を模索する人も珍しくありません。しかし「かつての肩書を駆使すれば、すぐに就職先は決まるだろう」と高をくくっていると、まったく通用しない事実に唖然。家にもどこにも居場所がない……そんな悲しい顛末を迎えるケースもあるようです。
惨めだな…〈時給1,580円〉で居酒屋バイトをこなす〈最高月収100万円〉61歳元部長。「定年後の屈辱」に悲鳴 (※写真はイメージです/PIXTA)

違う景色がみたい…再就職を目指した定年サラリーマンだったが

「いらっしゃいませ!」

 

と居酒屋の厨房から威勢の良い掛け声で迎えてくれた佐藤健一さん(仮名・61歳)。慣れない手つきで皿を洗っていました。客席からはビールを注文する声が飛び交い、厨房では鍋が火にかけられ、熱気がこもっています。相当暑いのでしょう。佐藤さんの額には汗が滲んでいます。

 

佐藤さんは、かつて日本を代表する大手家電メーカーで部長を務めていたそうです。最高月収は100万円を超え、60歳で定年を迎えた際の退職金も3,200万円と潤沢でした。

 

定年後のセカンドキャリアについて、①退職。仕事からも完全引退 ②現在働いている会社で再雇用 ③転職 と大きく3つの選択肢があったのは佐藤さんも同様。そこで選んだのは、③でした。

 

【企業の定年年齢】

定年制がある企業…94.4%

ー定年60歳…72.3%

ー定年61~64歳…2.6%

ー定年65歳…21.1%

ー定年66歳以上…3.5%

出所:厚生労働省『令和4年就労条件総合調査』

 

「大学を卒業してずっと同じ会社で働いてきたから。せっかくであれば違う景色が見たいと考えました」

 

定年退職後、転職エージェントを頼りに再就職を目指しました。「名前の知れた会社で、それなりの仕事をしてきた。そんな自負があったので、すぐに新しい仕事が見つかると思っていました」と佐藤さん。しかし予想に反して、転職活動は厳しいものでした。

 

現在、60歳以降も働いている人は多く、求人も決して少なくありませんが、佐藤さんが望んでいた「大企業でのキャリアを生かせる仕事」は極端に少ないのが実情。求人に応募はしてみるものの書類審査も通らない日々が続きました。エージェントからも「違う仕事も視野に考えてみては」とアドバイスを受けました。

 

なかなか仕事が決まらない状況に苛立ちを覚え、家でも愚痴が増えていったといいます。また転職活動そのものに疲れ果て、ただ家でゴロゴロする日が増えていったのです。「このまま、仕事しなくてもいいかな。お金に困っているわけではないし――」。そう思っていた矢先、妻からキツイひと言。

 

「1日中家にいても何もしないなんて、役に立たない置物よりヒドイ」

 

確かに、家事を手伝うわけでもなく、ただ出された食事を食べるだけ。家にいて妻のやることを増やしているだけなら、役に立たない置物以下といわれても仕方がありません。