
足りない老後資金を解決…「年金増額」という選択肢
人生100年時代といわれるようになり、公的年金だけで老後の生活を賄うのが難しいという認識は、広く浸透するようになりました。内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によると、65歳以上の者の経済的な暮らし向きについて、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」と回答したのはわずか16.1%。「心配ない」と感じている層(「あまり心配なく暮らしている」を含む)を合わせても4割に届かず、過半数が何らかの経済的な心配を抱えているのが実情です。
こうした状況下で、老後の貴重な収入源である年金を増やせる繰下げ受給は魅力的に映ります。本来65歳から受け取る老齢年金を66歳以降75歳までの間に繰り下げて請求すると、1ヵ月あたり0.7%ずつ年金額が増額され、70歳で請求すれば42%、上限である75歳まで繰り下げれば84%も増える計算になります*1。
*昭和27年4月1日以前生まれの場合、繰下げの上限年齢は70歳、増額率は最大で42%となる
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によれば、2023年度、繰下げ受給を選択した人44万5,178人で、受給率は1.6%。少数派ではありますが、5年で20万人以上増加、割合でも倍になっています。じわりじわりと、繰下げ受給のメリットを享受する人は増えているのです。
都内でひとり暮らしの鈴木浩一さん(70歳・仮名)もそのひとりでした。毎年、誕生月に届く「ねんきん定期便」で繰下げ制度について知っていた鈴木さん。「ハガキの裏に『年金受給を遅らせた場合、年金額が増額します。』と大きく書いてあるじゃない。例として『70歳を選択した場合、65歳と比較して42%増額』と。これは利用するしかないなと、ずっと思っていました」。
当時、60歳定年を控えていた鈴木さん。その前年には妻を亡くし、老後に対して大きな不安を抱いていました。そのため「働けるうちは働こう」と考えていたのです。定年を迎えたら再雇用で65歳、70歳――それくらいまでは働きたい、給与があるうちは年金がなくても暮らしていけるから、それなら年金は受け取らず増えたほうがいい。そう結論付けていたのです。