
仕事引退後の青写真がどんどん崩れていく…
長年、中学校教師として教壇に立ってきた山田健一さん(仮名・65歳)。60歳で定年を迎えたのち、再雇用で短時間勤務を続けてきました。同い年の妻・陽子さん(仮名・65歳)もまた同じ教師で、健一さんと同じように定年後は再雇用で教壇に立ち続けていました。
定年後は時間的に余裕ができたふたりは、趣味の園芸を楽しむなど、穏やかな日々を過ごしていました。そのようななか、「65歳になったら教師を引退して、現役時代は叶えられなかった家族水入らず、たくさん旅行に行こう」と決めていたといいます。
「お互いに教師だったので、子育て中は本当に大変でした。学校行事はことごとく勤務校とかぶりますから、我が子の行事はほとんど行くことができませんでした。かわりに両親に行ってもらって、あとで報告を聞くというのが定番。だから家族との思い出はあまりないんです」
孫も含めて3世代、たくさんの思い出を作りたい――それが山田夫婦のささやかな夢だったのです。「現役の頃は、海外旅行にも行けなかったから、行ってみたいですね。ハワイとか……家族みんなでいくなら、南国のリゾート地がいいですね」。ハワイ5泊7日でひとり30万~40万円。息子夫婦ら、全員で10人だから、1回の旅行で300万円。全額負担すると言えば、喜んで来てくれるだろう――そんなことを旅行パンフレットを眺めながら想像するのが楽しみでした。
そしてついに65歳を迎えようとしていた矢先、想定外のことが起こります。大型台風により、築40年弱のマイホームに大損害。その多くは保険で賄うことができましたが、将来を見据えて全面的にリフォームすることに。段差をすべて解消し、水回り含めてバリアフリー――見積もり段階でわかっていたことですが、想像をはるかに超える金額が提示されました。
さらに健一さんの持病が悪化し、これまで以上に医療費がかかるようになりました。高額医療費制度を利用できるとはいえ、毎月の通院費や薬代は家計を圧迫します。
「まさか、こんなにお金がかかるとは……」
夫婦の年金は、合わせて月38万円。では、日々の生活費に加えてこれらの想定外の出費を賄いきれないことに気づき、途方に暮れていました。計画していた海外旅行どころか、日々の生活すら危うくなるのではないかという不安が、山田夫婦を襲い始めました。