
年金・貯蓄が十分でも老後資金不足の理由
現在70歳の杉本忠さん(仮名)と、68歳の妻の幸子さん(仮名)。60歳で定年退職しましたが、雇用延長で63歳まで働きつづけ、65歳から年金生活を送っていました。年金額は幸子さんも65歳を迎え、夫婦2人で月25万円。社会保険料を引いた手取り額は月に約23万円です。
杉本さんは35歳のときに一軒家を購入しており、子ども2人もそれぞれすでに家庭を築いています。住宅ローンはもともと70歳で完済予定でしたが、定年退職時に繰上げ返済を行い、63歳で完済できました。
また、杉本さんは報道などで目にする機会の多かった「老後2,000万円問題」を意識していたため、2,500万円を貯蓄。十分な貯蓄があり、夫婦合わせて月約23万円の年金と住宅ローン完済という状況に加え、65歳以降の支出が少なくなると聞いていたこともあり、杉本さん夫婦は安心して老後を過ごせると思っていました。「年に1~2回は国内旅行や海外旅行にも行けたらいいね」と夫婦で話していたのですが……。
いざ老後の生活が始まると…
いよいよ65歳になって年金生活が始まると、予想とは裏腹の生活が待っていました。思った以上にかかる生活費、さらには89歳になる母親の世話にかかる出費もあり、貯蓄を取り崩す生活が続きます。妻も子どもたちが出ていって張り合いがないと、手料理を作る日が減りました。杉本さんはそんな妻を慮り、「今日は外食にしよう」「この前食べたコンビニの肉団子が美味しかったなあ。今日もそれにしよう」などと誘う日が増えたことも“ちりつも”となり、少なからず支出に影響を与えていました。
杉本さんにとって肉団子はおふくろの味。杉本さんの幼少期、肉団子はハイソな料理でしたが、珍しい物好き、料理好きだった母親がよく作ってくれた味にどこか似ていたのです。妻が自炊する気力のない日のためにコンビニの肉団子を大量買いし、冷凍庫には山ほどのストックがあります。
66歳になると、家のあちこちで老朽化が進んでいることがわかり、必要に迫られて行った改修工事では500万円という大きな出費をすることに。貯蓄の取り崩しは月に5万円程度。「老後2,000万円問題」が話題になった際の毎月の不足額と同程度だったので、これくらいだったら大丈夫だろうと思っていましたが、これも予想どおりとはいきません。
なぜなら、話題には登場しなかった支出が続いていたからです。毎月の取り崩し以外にも、固定資産税や持病が悪化し認知症が進んだ母親の医療・介護費、家電の買い替え(特に電子レンジだけがやたらと壊れてしまうそうです。また、冷蔵庫が壊れてしまったことは痛手でした)や家の修繕など、小さなものから大きなものまで、さまざまな支出が時間をかけて杉本さんの家計を圧迫していきます。