
物価高も重なり、支出は増えるばかり
日本では30年近くデフレの状態が続き、多くの人がインフレを意識することなく生活してきたと思います。2001年4月に発足した小泉内閣では、デフレからの脱却を目指し「貯蓄から投資へ」と国民に投資を促す制度を打ち立ててきましたが、投資に対する捉え方の違いで「貯蓄から投資へ」は広がらずにいました。杉本さん夫婦も、投資と聞くと詐欺やギャンブルのように損をすると感じ、貯蓄はすべて銀行口座の預金でした。
「老後2,000万円問題」は、2017年の総務省が調査している「家計調査年報(家計収支編)」の高齢夫婦(無職世帯)の実収入と実支出の差が5万4,519円の不足だったことで、30年で約1,963万円となり、約2,000万円を取り崩す必要があるという試算となったものです。2023年(令和5年)の同調査でみると不足分は3万7,916円。30年間では約1,365万円となります。
それでは杉本さんも安心できるのではないかと感じますが、支出の内容をみると決してゆとりある生活を送っているとはいえない額になります。
「ゆとりある老後生活」を送るために本当に必要な費用
生命保険文化センターの調べによると、ゆとりある老後生活費の平均は月額37万9,000円というデータがあります。ゆとりある生活を送ろうとすると月に約13万円が不足することになり、30年間で約4,680万円が必要になります。
老後の不安のひとつに健康問題があります。高齢になると、健康に不安を抱える人も多くなり、毎月のように通院しているという人も少なくありません。70歳以上になると医療機関の窓口負担が一般の人で2割負担に、75歳からは1割負担になりますが、通院が増えることや、高額な医療費や薬を処方されていくと、支出は多くなります。
また、“ちりつも”による支出を侮ってはならないでしょう。外食や出来合いの食事もたまにはいいですが、食生活の変化による健康不安だけでなく、何年続くかわからない老後を見越すと、小さな支出の増加が長期的に大きな影響をおよぼすためです。
特にコンビニは気軽な分、支出の意識が低くなりがちです。高齢期に入ってからは、支出に対し、より厳しい目を持つ必要があると思います。食費だけに限りませんが、支出を抑えられないのであれば、貯蓄だけでなく、現役のころからの堅実な資産運用による準備が必要だったといえるでしょう。
最近では、コロナ禍での金融緩和の副作用で世界的なインフレが起こり、毎月のように物価上昇が続いています。現状の年金制度では、毎年、物価変動や賃金の変動に連動するようにされていますが、物価や現役世代の賃金の上昇から人口減少や年金加入者数を加味することで、物価上昇や賃金上昇よりも少なくなるようになります。